一般的に契約書は二部作成し、契約の当事者が一部ずつ保管することが多いかと思います。しかし企業によっては、契約書を一部しか作成しないで、原本のコピーを控えとするパターンもあります。一方は原本を、もう一方は単なるコピーを保管することになりますが、このコピーの契約書は、いざ問題が発生したときに役に立つのでしょうか?
コピーされた契約書など、原本ではない契約書の法的な有効性について調べてみました。また紙媒体以外の電子データの証拠価値についてもまとめています。
契約書写しの証拠価値
契約書は、当事者間で契約の内容に齟齬がないよう書面に明記したものであり、契約の存在が確かにあることを証明するためのものです。通常は、契約の当事者が一部ずつ所持します。このとき、一方の契約書を原本又は正本と呼び、もう一方の契約書を写し、謄本、副本などと呼びます。
■二部作成する意味
契約書は、二部作成することが慣習になっています。二部作成する理由として次のことが挙げられます。
契約者の一方だけが契約書の原本を持っている場合、万が一紛失してしまったときに契約を証明するものがなくなってしまいます。また、契約金額の0をうまい具合に一桁増やしてしまったとしても、もう一方の契約者は比較するものがありませんので、改ざんを立証する術はなくなってしまいます。
このような契約書の紛失や改ざんを防ぐためにも、それぞれに一部ずつ持っておくべきなのです。
■契約書写しの証明力
契約書は裁判において重要な証拠となり、原本が最も証拠価値が高くなります。また、予め二部作成しそれぞれに署名押印するような契約書の場合でも、二部とも原本と同じだけの証拠価値を有することになります。
一方で印紙の節約のために、一部だけ署名押印し、それをコピーしたものを控えとして扱うケースがあります。印刷機でコピーした写しでも、契約書としての証拠能力を有していますが、改ざんや偽造の可能性もあるため、原本よりも証明力は落ちてしまいます。
もしもの紛争時には、原本を持っている方が有利となることは明らかです。特別な理由がなければ、原本を手元に置いておく方が安心です。
電子データの証拠価値
契約書の他にも、証拠となりうるものはたくさん存在します。デジタル化が進んでいる現代では、紙の契約書よりも、メール、画像、動画などの電子データの方が利用する機会も多いのではないのでしょうか。もしもこれらの電子データを証拠として利用したい場合、証拠としての価値はいかがなものなのでしょうか。
■ファックス
ファックスで通じてやりとりした契約書類も証拠にはなります。印刷機でのコピーと同じようなものですが、ファックスの場合文字の鮮明さは落ちるので、若干証拠価値が落ちてしまうこともあります。
手書きの場合には筆跡が残りますので、メールのような電子データでの証拠よりも価値があるといえます。
■電子メール
メールなどのテキストデータも証拠となります。ただし、メールなどの電子データは改ざんや偽造の恐れもあるため、まずは証拠として真正なものかどうかが、裁判官によって判断されます。
プロバイダーから直接メールを取り寄せたり、パソコンのハードディスクを解析して読み取る方法が取られたりすることもありますが、内容について相手側と相違がなければ、そのまま真正な証拠として扱われます。
なお証拠として提出する際には、紙にプリントアウトして書面で提出する必要があります。
電子署名 紙の契約書で用いられる署名押印と同等の価値を持つのが、電子署名です。法律上、電子署名がついている電子文書は、真正に成立したものと推定されます。(電子署名法第3条)裁判において、電子署名付きの電子文書は、証明能力の高い証拠として扱われます。 |
■携帯電話の写真データ
携帯電話で撮影した画像データや契約書についても、プリントアウトすれば証拠として提出することができます。ただし編集や加工が容易にできるため、証拠としての価値が下がってしまう可能性もあります。デジタル式のカメラよりも、フィルム式のカメラで撮影した方が改ざんが難しいため証明力が高くなる傾向にあります。
また、連続性のある写真や、撮影した対象、撮影日時、撮影場所がはっきりしている写真の方が、証拠としての価値が高くなります。
■動画・音声データ
動画や音声データは、画像データと比較すると改ざんが容易ではないため、裁判において有力な証拠となりえます。しかしデータの性質上、書面での提出ができないため、データとは別に反訳書という録音証拠を書き起こした書面を作成する必要があります。反訳書は誰でも作成可能ですが、所定の書式があり、これを満たさないと正式な証拠として認められないために注意が必要です。誤字脱字があることで、証拠能力を失ってしまう可能性もあります。費用はかかりますが、反訳を請け負っている民間企業へ依頼することも可能です。
長時間に渡る音声データは書き起こす側も、またそれを読む側も大変な労力となります。一般的に、録音時間の5倍~8倍近くかかるようです。客観的な視点で、証拠としての有用性と労力を天秤にかけて、証拠として使用すべきかの判断をする必要があります。
また、任意に作成できることから、時には反訳書に故意に虚偽の内容を盛り込んで、有利に進めようとする悪質なケースもあります。録音データは聞かずに、反訳書だけに目を通す裁判官も多いため、相手側の証拠として提出された場合には、細心の注意をもって正確性を確認しましょう。
紙の契約と電子契約
電子媒体の使用が当たり前になっている現代でも、紙の契約書を使用しての取引が主流となっています。その理由として、紙の契約書は改ざんや偽造がしにくい、経年で様子が変わるなど物質的な手がかりが得やすい、署名押印によって高い証明力を得られやすい、などが挙げられます。
もしものときには役立つ紙の契約書ですが、一方で、作成の手間や郵送代や印紙代といった費用もかかるため、日常の手続きとしては非効率な方法であるともいえます。
こうした問題を解決するため、最近はクラウド上での電子契約も登場しています。電子契約の場合、郵送代がかかりませんし、印紙税も課税対象外のため不要になります。郵送、押印、保管の手間がなくなり業務の効率化が図れるといったメリットもあります。さらに電子署名を用いているため、署名押印付きの契約書と同等の証明力があります。
ただし電子契約の場合、契約の相手も電子契約に参加しないと意味がありません。双方に電子契約の運用費がかかってしまうこともあり、導入前の企業の了承を得るのは難しくなってしまうのです。
紙の契約書と電子契約、信用度については同程度ですが、運用においてそれぞれにメリット・デメリットが存在するのです。
メリット | デメリット | |
紙の契約書 | ・証明力が高い ・広く受け入れられている |
・印紙代がかかる ・作業効率が悪い |
電子契約 | ・証明力が高い ・印紙代がかからない ・作業効率が良い |
・導入ハードルが高い ・利用料がかかる |