テレビでは、犯罪の疑いがかけられている人に対して、重要参考人、容疑者、被告など、様々な表現を使っています。すべて同じ人物を指しているのにも関わらず、なぜ呼び方を変えているのでしょうか。
どのような基準で使い分けられているのかについて、刑事事件の進捗ごとにまとめてみました。
事件捜査の参考人(重要参考人)
参考人とは、事件の被害者や目撃者など被疑者以外の有力な情報を持つ人物を指します。事件の捜査において、参考人は任意での出頭や供述を求められます。なお、学識経験者なども参考人にあたります。
■重要参考人は俗語
重要参考人という言葉は俗語であり、法令用語ではありません。重要参考人は、単に事件に関しての重要な情報を持っている人物のことをいう場合もありますが、多くの場合で捜査段階にある被疑者候補のことを指します。はっきりと特定はできないが、かなり怪しい人という位置づけとなります。まだ被疑者でないという点で、重要参考人も参考人の範疇となります。
重要参考人についても、任意での捜査となるため、出頭や供述を拒否することができます。供述中は黙秘権や弁護権の告知は行われないため、人権保護の観点では被疑者よりも弱い立場となる可能性があります。
起訴前は被疑者(容疑者)
事件の犯人の疑いがかけられており、且つ起訴前の人物を被疑者といいます。
押収、家宅捜索、逮捕状申請など何らかの法的な手続きが開始された時点で、重要参考人は被疑者となります。被疑者は取り調べのために任意同行を求められますが、拒否することもできます。逮捕状がある場合には強制的に警察署へ連れて行かれます。
被疑者になると黙秘権や弁護権が保護されますので、取り調べが始まる前に黙秘権の告知や弁護士が必要かの確認が行われます。
■容疑者は俗語
被疑者と同義の意味を持つ容疑者は、マスコミで使われている造語です。かつて被疑者の実名報道は呼び捨てで行われていましたが、人権配慮のため1980年代から容疑者という言葉が使われるようになりました。
■参考人と被疑者の任意同行
任意同行を求められた場合、参考人としての任意同行か被疑者としての任意同行かで意味が大きく変わります。参考人としてであれば、事情聴取が終わり次第帰してもらえますが、被疑者として同行された場合は、そのまま身柄を拘束される可能性もあります。被疑者の任意同行は、逮捕状発行までの時間稼ぎや、被疑者の生活圏での逮捕劇を避けるための配慮といわれており、実質的には逮捕同然と考えられているからです。
何もできないまま起訴まで身柄を拘束されてしまう恐れがあるため、不安な場合は出頭する前に弁護士へ相談しましょう。適切なアドバイスがもらえたり警察署へ付き添ってもらったりすることも可能です。
起訴後は被告人(被告)
逮捕又は勾留された被疑者が起訴された後は、被告人と呼ばれます。被告人は刑事裁判において有罪か無罪かを判断されることになります。裁判中、被告人は拘置所で過ごします。逃走や証拠隠滅の恐れがない場合、保釈金を預けて自宅で過ごすこともできます。
■被告は民事裁判で使う言葉
マスコミで、被告人の意味で使われている被告という言葉は、本来民事裁判で訴えられた側の人を指す言葉であり、刑事事件では使われません。被告と被告人は全く別の意味です。
判決後は元被告人・受刑者・死刑囚
刑事裁判で無罪判決や執行猶予付きの有罪判決となった場合は、元被告人という呼ばれ方をします。
施行猶予の付かない実刑の確定判決が下された場合、被告人は受刑者(又は服役囚)となり刑務所に収監されます。釈放や刑期終了となり出所した後は、元受刑者(元服役囚)と呼ばれるようになります。
また、死刑判決が下された場合は死刑囚として拘置所で過ごすことになります。執行日を迎えた死刑囚は、元死刑囚となります。