弁護士業界では、「多重会務」を抱える弁護士が存在します。たくさんの借金を抱える多重債務者をもじった言い方であり、たくさんの会務に忙殺されている弁護士は自らのことを多重会務者と自称します。
多重会務者は決して借金のように悪いものを抱えているわけではなく、むしろ弁護士として重要な責務を抱えています。弁護士の「多重会務」について説明します。
弁護士の会務とは
弁護士には法律相談や訴訟関連業務以外にも、「会務」とよばれる所属弁護士会の業務があります。会務は通常の弁護士業とは違い、無償で行われる公益活動です。弁護士会運営に関わる業務をはじめ、国選弁護活動、当番弁護活動、各自治体での無料相談、行政への提言、教育支援などのプロボノ活動が中心となっています。
基本的人権の擁護と社会正義の実現という弁護士の使命を果たすために、公益活動は弁護士の重要な職務であると考えられています。一定以上の公益活動を義務化している弁護士会もあります。
会務はボランティア活動みたいなものですので、弁護士にとって経済的なメリットはありません。そのため会務をほとんど行わない弁護士もいれば、熱心に取り組む弁護士もいます。会務を厭わない弁護士のもとには仕事が集まってきますので、やがて抱え込んだ会務で手が回らなくなると、自らを多重会務者と揶揄する弁護士も出てくるのです。
多重会務者の特徴について
どのような弁護士が会務を積極的に行っているのでしょうか。多重会務者となる弁護士には次のような特徴があります。(この限りではありません)
■プロフィールの所属欄が「〇〇委員会」「〇〇センター」といった記載で埋め尽くされている
会務の中心は、弁護士会の委員会活動です。委員会に所属していることをプロフィールに記載しているということは積極的に会務を行っている証拠です。
■優秀である
たくさんの会務を任される弁護士は、信頼されている優秀な弁護士であるといえます。運動神経のいい人が運動部の助っ人として引っ張りだこになる状態ともいえるかもしれません。
■志が高い
会務を積極的に行う弁護士は、誰かの役に立ちたいという思いが強い、活動的で成長意欲がある、など弁護士としての志が高いといえます。
■弁護士同士の人脈がある
会務は弁護士の社交の場です。積極的に参加している人は弁護士の人脈を多く持っている可能性が高いです。特に若い弁護士にとっては先輩から仕事を得られるチャンスにもなります。
■頼まれると断れないタイプ
仕事を頼まれると断れないお人好しタイプかもしれません。
■経済的な基盤がしっかりしている
無償の活動に時間を費やすことができるということは、そこまでお金には困っていないともいえます。
会務は計画的に
会務は社会貢献度の高い活動であるといえますが、無計画に抱え込みすぎると経済的に破綻します。実際に、多重会務を理由に金銭的な不祥事を起こした弁護士会の役員もいるくらいです。抱え込みすぎは身の破滅を招くという意味では、借金と同じかもしれませんね。