世界一働く国、日本。あなたにとって、働くとは何ですか?
「1日について8時間を超えて、労働させてはならない。」
これは労働基準法に定められている法定労働時間についての一文です。多すぎる、少なすぎると、様々な意見がありますが、今では国の基準として当たり前のように扱われています。しかしこの労働時間をはじめとして働くことについて定めた労働基準法は、いつ誰が決めたものなのでしょうか?
その背景に見えてきたものは、戦前から戦後そして現在にいたる働く日本人の歴史でした。
労働基準法とは
労働基準法は労働者を保護するための法律であり、賃金、就業時間、休日などの労働条件についての最低水準が定められています。この水準を下回る労働契約は無効となり、合意等必要なく労働基準法で定める条件に置き換えなければなりません。これに反すると6ヶ月以下の懲役、又は30万円以下の罰金を課されることもあります。使用者と労働者の立場の不平等さをなくすという意図もあります。
戦前日本の労働環境と経済的発展
労働基準法は、戦後日本のGHQによる改革の一環として制定された法律です。制定の背景には、戦前の日本の労働環境と軍国主義化が関係しています。
日本の労働法のさきがけ 工場法
戦前の日本で労働法として定められていた工場法は、主に工場で働く女子や年少者の労働を規制したものであり、労働者全体の保護というよりは、国の発達のための良質な労働者の確保という意味合いの強いものでした。そのため労働者を保護するための法律としては不十分であり、労働環境は依然劣悪なものでした。
戦前日本の経済発展
1930年代各国が世界恐慌の影響に苦しむ中、日本では金輸出再禁止により円安が進み、輸出が大きく伸びました。中でも綿織物の市場規模はイギリスを抜いて世界一となり、列強諸国を凌ぐ大きな経済発展を遂げます。
しかし日本の国際競争力の強化は、ソーシャル・ダンピング(労働者の賃金を不当に低く設定しコストを抑えることで安価な商品の大量輸出を可能にしている)であるとして国際社会から批判を受けました。そして関税の引き上げや輸入制限を受けることになり、その影響が及ばない東南アジアなどへの海外侵略のきっかけとなりました。
戦後日本におけるGHQの民主化対策
このように日本の侵略主義的性質は、不当な国際競争力を生み出すソーシャル・ダンピングが一因であるとし、GHQは戦後の改革として労働環境にメスを入れたのです。GHQの指導の元、労働組合法を制定し労働者の地位を高め、使用者による不当な賃金引き下げなどを防ぎました。また労働者の長時間労働を防ぐために、最低労働水準を定めた労働基準法が制定されたのです。
ジャパン・アズ・ナンバーワン
GHQによって日本は民主化政策を行われました。5大改革以外も含め、それぞれに成功という評価も失敗という評価もあります。少なくとも軍国主義の国家がたった数年間で民主主義国家へと変わっていったのは、GHQの改革の賜物であるといえます。GHQは日本から構造的に戦争の原因となりうる可能性を除去するため改革を行いました。日本人の精神、日本の技術力、日本の底力が原因となりうると考えたのかもしれません。
昨今、違法長時間労働疑いがニュースになっており、政府も長時間労働の是正に動き出しています。2017年2月の働き方改革実現会議では、いわゆる36協定で結べる残業時間の上限を月平均60時間とする、罰則付きの原案が提示されました。
一方で、ジャパン・アズ・ナンバーワンといわれた高度経済成長を支えた大先輩のビジネスマン達が物議を醸しています。一律に国が制限することが正しいのか、日本の底力に制限をしていいのか、と。
現代を代表する経営者であるサイバーエージェント藤田社長もホリエモンも、起業時は睡眠時間以外ずっと仕事をしていたとブログに書いています。2015年4月には楽天の三木谷会長が、ベンチャー企業は「労働時間制度の適用除外を引き続き検討するべき」とコメントしているのです。
失われた20年、経済の停滞が続いています。1人あたりのGDPで日本は1993年にシンガポールに抜かれ 、1997年には香港、2010年には台湾に追い抜かれました。そして2018年には韓国にも抜かれるといわれています。
人によっては出家するほど苦役だと感じる仕事も、またある人にとっては何にも代えがたいものであったりします。働き方の多様性を否定するわけではありませんが辛い思いして働くことは悪だという潜在的な意識は、ある意味GHQによる改革の「賜物」なのかもしれません。
その上で今一度問いかけたいと思います。あなたにとって、働くとは何ですか?