同性カップルを認める渋谷区のパートナーシップ制度。その第一号カップルであった東小雪さんと増原裕子さんが、先日パートナー解消したことを発表しました。パートナーシップ証明書を渋谷区役所に返還し、「離婚」となったことで話題になりました。
パートナーシップ制度は同性婚に代わる制度として取り入れられたものですが、そもそもなぜ日本では同性婚が認められていないのでしょうか。日本における同性婚の法的立場や、パートナーシップ制度をはじめとした同性婚に代わる方法を紹介します。
同性婚の法的な立場
日本において同性婚は認められてはいません。国として明確に否定しているわけではありませんが、正式に認めるための具体的な動きがあるわけではなく、正に議論の最中といった状況です。同性婚賛成派と反対派には、法的な解釈の相違があります。
同性婚に関連する法律には下記のようなものがあります。
■憲法(第24条)
憲法24条では、婚姻について下記のように定められています。
憲法第24条1 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、
夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
条文内では、「両性」「夫婦」という表現が使用されており、男女間のことを前提としているため、憲法において同性婚は認められていないという反対派の意見が主流となっています。
一方で、憲法24条はもともと家制度※の廃止と男女の平等を目的して作られたものであり、同性婚を否定するためのものではないとする意見もあります。単なる異性婚についての規定であり、同性婚については触れていないため違憲ではない、という意見や、「両性」という表現は必ずしも男女ではなく、男性同士、女性同士という解釈もできるため、違憲ではないという意見もあります。
※家制度の下では婚姻には親の許可が必要であった。
■民法(第2章)
民法の第四編第二章には、婚姻についての記載がありますが、「男」「女」「夫」「妻」という表現が使用されており、同性婚を実現するにはこれらの言い回しをすべて変える必要があるという指摘があります。
■戸籍法(第74条)
戸籍法では、婚姻の方法について下記のように定められています。
戸籍法第74条1 婚姻をしようとする者は、夫婦が称する氏を届書に記載して、
その旨を届け出なければならない。
ここでも「夫婦」という表現が使用されていますので、戸籍法での表現も改める必要があります。
このように、同性婚が認められるためには、多くの法改正が必要となる可能性があることがわかります。
同性婚に代わる3つの方法
同性婚についての関心が高まっているものの、法改正に向けた具体的な動きはありません。現状では、同性婚に代わり次のような選択肢があります。
■公正証書による個別契約
貞操義務や同居義務など婚姻関係に準ずる取り決めをまとめて、公正証書による契約書を作成するという方法があります。
財産管理や任意後見契約などについても盛り込むことができますが、法律上認められた配偶者優遇については認められません。
公正証書については『最強の証書「公正証書」の効力とは』を合わせて御覧ください。
■パートナーシップ宣誓制度
自治体に、婚姻届ならぬパートナーシップ宣誓書を発行してもらうことにより、婚姻関係に相当する関係性を証明することが出来る制度です。二人ともその自治体に住民票がなければなりません。
日本で初めて登場したのは、東京都渋谷区が2015年に施行した「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」です。自治体が初めて同性カップルを認めた制度として話題となりました。現在は渋谷区の他にも、東京都世田谷区、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市、沖縄県那覇市、北海道札幌市と、全国6つの自治体で実施されています。
具体的には下記のようなメリットがあります。
パートナーシップ申請のメリット
・パートナーが医療行為を受ける際に、関係者として面会や病状説明が受けられる。また手術の同意者となれる。
・携帯会社による家族割などの各種サービスが受けられる。
・事実上の親族や同居人として公営住宅や民間賃貸住宅への入居が認められる。
・各種保険の受取人として認められる。
・家族手当や慶弔休暇の対象となる。
すべて自治体内でのみ効力のあるものです。また法的な婚姻関係ではないため、戸籍や姓は別になる他、相続権や税金の配偶者控除などは認められません。ただし遺言書を作成することによって遺贈を受けることは可能です。
■養子縁組
パートナーと養子縁組をすることで親子関係、またはパートナーの両親と養子縁組をすることで兄弟(姉妹)となり、戸籍上同じ姓の家族になる方法もあります。恋人関係ではありませんが、親族になることで相続権が発生したり被扶養者となれたりするというメリットがあります。
ただし民法上、一度でも親子関係を結んでしまうと、離縁したとしても婚姻関係を結ぶことができないという決まりがあります。今後同性婚が認められた際に、婚姻関係を結べなくなる可能性があるというデメリットがあります。
■海外へ移住
同性婚が認められた国へ二人で移住するという方法もあります。またはパートナーのどちらかが同性婚が認められている国の国籍を持っていれば、その国のルールに従って同性婚を実現することができます。ただし日本においては婚姻関係が認められませんので、異性婚と同様の権利を受けるためには海外へ移住する必要があります。
世界での同性婚
世界における同性婚は、宗教や国家の体制によって大きく対応が分かれています。キリスト教、ユダヤ教、イスラム教、儒教は、同性愛について否定的であり、かつより保守的な思想を持つ国ほど、厳しく取締りを行っている傾向にあります。
■同性婚が認められている国
同性婚が世界で初めて合法化されたのはオランダです。ヨーロッパの国々をはじめとして、ほとんどの先進国で同性婚が認められています。
同性婚が認められている国、及びパートナーシップ制度が存在する国は下記の通りです。
同性婚が認められている国 | パートナーシップ制度が存在する国 |
オランダ、ベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、ポルトガル、アイスランド、デンマーク、フランス、南アフリカ、アルゼンチン、カナダ、ニュージーランド、ウルグアイ、イギリス、ブラジル、アメリカ、メキシコ、ルクセンブルク、アイルランド、グリーンランド、エストニア、フィンランド、ドイツ | アンドラ、イスラエル、イタリア、エクアドル、オーストリア、キプロス、ギリシャ、クロアチア、コロンビア、スイス、スロベニア、チェコ、チリ、ハンガリー、ベネズエラ、リヒテンシュタイン、日本(一部の地域) |
■同性婚が罪になる国
同性婚を認めないということに留まらず、同性愛を犯罪とする国も存在します。特にイランやサウジアラビアなどイスラム原理主義の国々では、同性同士の性行為を死刑と定めています。
一方で、キリスト教でも同性愛は禁止されていますが、欧米諸国など多くのキリスト教圏の国々で同性婚が認められています。キリスト教といっても複数の宗派があり、同性愛に対する考え方も様々です。保守派のキリスト教などでは、同性愛に対して否定的な考えが根強く残っているようです。
韓国は、朝鮮戦争の影響もありキリスト教が最大宗派です。保守派が多いため同性愛に対しては否定的です。北朝鮮は閉鎖的な社会であり、基本的に性に対してオープンではありません。同性愛に関しては、資本主義思想に染まった罪として処刑された例もあります。
まとめ
日本での同性婚は認められていませんが、自治体によるパートナーシップ制度は徐々に広がりを見せています。一方で、同性カップルの子どもに与える影響は少なくないため、慎重に議論されるべきとの考え方もあります。
夫婦同姓など、婚姻制度については他の先進国に比べると後進的な日本。しかし「ジェンダーレス」という言葉がファッションにおいて好意的に受け入れられているように、若い世代では「性のあるべき姿」のような意識が薄れているのかもしれません。人と違うことが個性として尊重されるような世の中になって欲しいですね。