刑事事件の被疑者や被告人となった人は、誰でも弁護を受ける権利があります。逮捕されてしまうと当事者は身動きが取れなくなってしまうため、捜査官を通して弁護士の依頼をすることになります。
その際、弁護士依頼の方法は2つあります。1つは自分で任意に選んだ私選弁護人、そしてもう1つは弁護士会を通して依頼できる無料の当番弁護士です。当番弁護士は無料で依頼できる点で大きなメリットになりますが、デメリットも存在します。
この記事では、当番弁護士や私選弁護人に依頼するメリットとデメリットについてまとめています。
また、当番弁護に類似した援助制度として国選弁護という制度もあります。「国選弁護人とは?呼べる条件とメリット・デメリット紹介」にて詳しく紹介していますので、合わせてご覧下さい。
当番弁護士とは
当番弁護士とは、刑事事件の被疑者になったときに、一度だけ無料で呼ぶことの出来る弁護士のことです。
逮捕や勾留などの身柄拘束を伴う事件では、状況がわからぬまま急に拘束されてしまい、そのまま長期的に外へ出られなくなってしまう恐れがあります。
取調べ中、捜査員は親切に状況を説明してくれるわけではありません。むしろ被疑者に大きなプレッシャーをかけて、誘導尋問などで自覚のないまま不利な供述を強要されてしまう可能性もあります。そして調書にサインしてしまえば、裁判での立派な証拠となります。起訴前の供述は裁判において重視されます。いくら裁判中に弁解したとしても、ひっくり返すことは難しくなってしまうのです。
■当番弁護士制度
そこで、逮捕後間もない捜査段階にある被疑者を保護するために設けられたのが、当番弁護士制度です。各弁護士会によって運営されており、当番制で弁護士を派遣してくれます。逮捕後、本人が捜査員や裁判官を通して依頼することができます。また家族が管轄の弁護士会に電話連絡することでも依頼が可能です。
被疑者国選弁護のタイミング 逮捕→勾留→起訴→起訴後勾留→公判 |
当番弁護士は、被疑者に対して今後の手続きの流れや今自分が置かれている詳しい状況を説明してくれます。例えば、黙秘権の行使や取調べの調書に不服があればサインしなくて良いことなどについて教えてくれます。
弁護士は被疑者にとって不利なことは絶対に行いません。逮捕後の唯一の味方といっても良いため、多くの被疑者は安心感を得ることができます。
当番弁護士のメリット
当番弁護士のメリットは、費用面と早期の弁護が可能である点です。3つのメリットとしてまとめました。
■無料
当番弁護士の費用は、弁護士会が被疑者本人に代わって負担しますので、1回までは無償で利用することができます。経済的な事情関係なく、逮捕された被疑者であれば誰でも利用することができます。未成年でも依頼が可能です。
■逮捕後すぐに駆けつけてくれる
その日に当番として割り振られた弁護士は、一日予定を入れずに待機していますので、基本的に要請があった当日に駆けつけてくれます。逮捕後72時間以内は家族にも会えず、面会が許されているのは唯一弁護士だけです。早いタイミングで駆けつけてくれることで、取調べについての適切なアドバイスを得ることができます。
■原則受任してくれる
私選の場合、事件の内容によっては弁護を拒否されることもある中、当番弁護士は被疑者やその家族から要請を受けた場合、原則受任義務が発生します。ただし利益相反や事実とは異なる弁護を強要した場合には、拒否されることもあります。
当番弁護士のデメリット
当番弁護制度を利用するには、いくつか条件があります。デメリットとして次の3つの事柄が挙げられます。
■一度だけしか呼べない
当番弁護士は、一度だけしか呼ぶことができません。二度目以降は有償となり、たとえ同じ弁護士が担当したとしても、それは私選弁護人として雇う必要があります。
■身柄事件しか適用されない
当番弁護士は、逮捕や勾留が伴う身柄が拘束される事件でのみ適用されます。逮捕されることなく進む在宅事件の場合には、当番弁護士を呼ぶことはできません。
■弁護士を選べない・変更できない
当番弁護士の順番を決めているのは、各都道府県の弁護士会です。被疑者本人や家族は好きな弁護士を指定することはできません。また、派遣されてきた弁護士が気に入らないからといって変更することもできません。当たりハズレがあると言っても良いでしょう。特定の弁護士に依頼したい場合には、私選弁護という形となります。
私選弁護人とは
私選弁護人とは、当番弁護制度を利用せずに、個人的に依頼した弁護士のことをいいます。基本的には弁護士というと私選弁護人のことであり、当番弁護士は限定的なケースとなります。
■私選弁護人選任制度
いざ弁護士に依頼しようと思っても、懇意にしている特定の弁護士がいるというケースは珍しいのではないでしょうか。しかもインターネットで検索して探せる状況であるとは限られないため、依頼する弁護士のあてがなく困ってしまうことがあります。そのようなケースで多く利用されているのが私選弁護人選任制度です。私選弁護人紹介制度の申込みができるのは、当事者のみであり、家族が代わって依頼することはできません。
なお、私選弁護人選任手続きによって選んだ弁護士との契約が成立しなかった場合には、国選弁護制度の請求が可能となります。
■刑事被疑者弁護援助制度の利用
経済的な理由で私選弁護人を依頼できない場合には、刑事被疑者弁護援助制度という法テラス(日弁からの受託業務)による支援が受けられます。弁護士費用や訴訟費用を、日弁が立替える制度であり、弁護士からの申し出があれば基本的に依頼者の負担はありません。
1.逮捕や勾留されて身体を拘束されていること、2.資力が50万円以下であること、3.弁護の必要性と相当性があることの3つが条件となります。
また、被疑者国選弁護制度の適用外(長期3年以下の刑など)である必要があり、申込みは当事者からではなく弁護士を通じて行われます。
私選弁護人のメリット
私選弁護人のメリットは自由度の高さです。具体的には次の3つが挙げられます。
■場面を問わず呼ぶことが出来る
私選弁護人は、民事・刑事、在宅・身柄、法定刑の軽重問わず依頼することができます。またタイミングも関係ないため、逮捕前から依頼することができ、身柄拘束となるリスクを減らすことができます。
■好きな弁護士を何人でも選ぶことができる
弁護士にも得意不得意分野が存在します。私選であれば案件にあった弁護士を何人でも選ぶことが出来るため、より弁護活動をスムーズに受けることができます。逆に気に入らなければ解任することもできます。
■総合的に対応してくれる
逮捕回避、示談交渉、早期の身柄解放、公判弁護など、一度に限らずはじめから終わりまで総合的な弁護活動を行ってくれます。
私選弁護人のデメリット
私選弁護人に依頼する上でネックとなるのは費用面です。他にも、下記のようなデメリットが挙げられます。
■費用がかかる
私選弁護人に依頼するとそれなりの費用がかかります。相談料、着手金、成功報酬金、交通費などの実費や日当がかかってきます。成功報酬金は、示談交渉、不起訴、執行猶予付与など、項目ごとに設けられますので、一般的に長引けば長引くほど費用は大きくなってきます。
多少金銭的に余裕のあるケースでないと、実績のある弁護士への依頼は難しいかもしれません。ただし条件があえば、刑事被疑者弁護援助制度など法テラスの援助を受けることもできます。
■断られることがある
こちらが弁護士を任意に選べるのと同様に、弁護士側も受任するかしないかを選択することができます。勝てる見込みがない、得意な分野でない、報酬が見合わない、不当な弁護活動を強要したなど理由は様々ですが、弁護士は受任を拒否することができます。
弁護士契約は双方の同意の上で成立します。いくら自分が希望しても、残念ながら弁護士側から断られてしまうケースもあるのです。
■よい弁護士に出会えるとは限らない
私選弁護人は、弁護士を自由に選べる点でメリットですが、選んだ弁護士が必ずしも良い弁護士であるとは限りません。弁護士はたくさんいますから、当番弁護士と同じように当たりハズレがあることを否定はできません。
まとめ
当番弁護士は、弁護士会を通して依頼できる無償の弁護士であり、私選弁護人は個人的に費用を払って依頼する弁護士です。 それぞれ利用できる条件や期待される役割は異なります。国選弁護人についても合わせて下記の表にまとめました。 国選弁護人については、国選弁護人とは?呼べる条件とメリット・デメリット紹介を御覧ください。
当番弁護士・国選弁護人・私選弁護人の違い
利用できる条件 | 期待される役割 | 費用負担 | ||
当番弁護士 | ・刑事事件(身柄拘束あり) ・起訴前の段階 ・一回のみ |
今後の流れの説明やアドバイス ・黙秘権、調書署名拒否権の説明 ・各種支援制度の説明 ・家族への連絡 |
弁護士会 | |
国 選 弁 護 人 |
起 訴 前 |
・刑事事件(身柄拘束あり) ・勾留状がでている ・死刑又は無期若しくは長期3年を越える懲役若しくは禁錮にあたる事件 ・資力が50万以下である |
不起訴を目指す弁護活動 ・示談交渉 ・早期の身柄解放 ・不起訴 など |
国or依頼者 裁判官が判断 |
起 訴 後 |
・必要的弁護事件または資力が50万以下である | 公判での弁護活動 ・無罪判決や執行猶予を得る ・量刑を軽くする など |
||
私選弁護人 | 特になし | 総合的な弁護活動 ・自首付き添い ・逮捕回避 ・取調べのアドバイス ・示談交渉 ・早期の釈放や不起訴を得る ・無罪判決や執行猶予を得る ・量刑を軽くする など |
依頼者※ |
※法テラスによる援助あり