未払い残業代の請求は、対企業を相手取りますので、厳しい戦いになることが予想されます。しかし適正な労働の対価は労働者に保障された権利です。しっかりとした下準備と強い目的意識があれば、高い確率で回収することが可能です。
この記事では未払い残業代請求の流れや必要書類について紹介しています。
未払い残業代の請求方法
未払い残業代の請求は下記の流れで進めていきましょう。場合によっては裁判にまで進むこともありますが、大半は和解によって終結します。一人で進めるのが難しいと感じた場合には、弁護士などの専門家へ相談することも一つの手です。
■必要資料を集める
残業代の請求には、何より証拠集めが重要となります。個人と企業の戦いになりますから、しっかりとした下準備をしないと相手にもされません。
まずは勤務実態を証明できる資料を集めましょう。下記は一例です。原本や写しを準備しましょう。
勤務実態の証拠 ・タイムカードや出勤簿 ・残業時間のメール履歴 ・パソコンのログイン、ログアウト時刻の履歴 ・交通系ICカードの利用履歴 ・出勤退勤時間を記載したメモ など |
次に、実際に支払われた額と、本来支払われるべきであった額の差を調べる必要があります。
勤務実態と給与明細を照らし合わせて、請求額の計算を行います。具体的な計算方法についてはこちらの記事をご参照ください。「残業代の計算方法~固定給・歩合給・遅延損害金・付加金~」
企業の就業規則などに記載されている残業代支給についての項目に目を通し、規則通りに支払いがされていないことを確認しましょう。労働時間制によっては、支払対象外となっている可能性もあります。
すべて必要な資料となりますので原本や写しを準備しましょう。
未払い金計算のための資料 ・給与明細 ・源泉徴収票 ・雇用条件通知書 ・雇用契約書 ・就業規則 など |
■企業への請求
資料が揃ったら、企業へ未払賃金がある旨を連絡します。在職中や、企業がきちんと応じてくれる見込みがあるような場合には、まずは通常のメールや書面、または話し合いによる解決を目指しましょう。
まったく相手にされない、徹底的に争う姿勢を見せたい場合には、配達証明付きの内容証明郵便で請求書と書面を送りましょう。内容証明郵便自体に支払の強制力はありませんが、時効を仮に止めることができる「催告」という法的な意味をもっており、6ヶ月以内に訴訟を起こすことで、内容証明郵便を送った時点に遡って時効を中断することができます。
書面にはどれだけの残業時間があったか、請求額がいくらになるかを記載する必要があります。決まった書式はありませんが、最低でも下記の情報は記載しておきましょう。
内容証明に記載する内容
・企業での在籍期間
・請求の意志表示
・未払いがあった期間と残業時間
・請求額の詳細
・請求期日
・振込先の口座情報
・日付
・企業名と住所
・自分の氏名と住所
弁護士へ依頼すれば、代理で計算や書面作成、送付まで行ってくれます。また内容証明郵便を弁護士名義で送ることで、法的な手続きを取ることも辞さないという意思表明にもなります。より企業が交渉に応じる可能性が高まります。
■労働監督署への申告
内容証明にも応じないような場合には、労働監督署へ申告することで事態が進展する可能性があります。準備した資料で労働基準法に違反していることを示すことができれば、企業に労働監督署のメスが入り、違法状態解消のための指導や是正勧告が行われます。
未払い賃金の支払指示も出されますが、自分だけではなく従業員全員に対するものになります。企業の支払額が大きくなりすぎて、かえって回収が難しくなるケースもありますので、確実に回収したい場合には、「労基申告」をあくまで交渉材料の一つとして考えたほうがいいかもしれません。
■裁判外での交渉
企業が内容証明などに応じると、まずは裁判外で交渉を行うことになります。(直ちに裁判手続きに入ることもできます。)
企業からの提案に応じれば和解となり、合意書が交わされます。法的な拘束力を持たせるためにも、公正証書での作成を行いましょう。公正証書についてはこちら→「最強の証書『公正証書』の効力とは」
交渉が決裂した場合には、いよいよ裁判上の手続きによって訴えていくことになります。
■労働審判
裁判外での交渉が決裂してしまった場合には、労働審判という裁判所での手続きが可能です。労働審判は、賃金の未払いや不当解雇など、労働者の権利に関わるトラブルを専門に扱っている紛争解決手続きです。
裁判官1名と、労働関係の専門家である労働審判員2名によって審理され、基本的には話し合いでの解決が求められます。3回以内の期日で行われるため訴訟よりも短期間で終えることができますが、一方で、短い期間でいかに有効な主張ができるかが重要となってきます。
最終的には実情に応じた解決案が提示され、これに応じれば労働審判が確定し、裁判上の和解となります。確定判決と同じ効力を持ち、いざというときには強制執行も可能となります。
解決案に不服がある場合には異議申立てができ、労働審判は効力を失います。その後自動的に訴訟手続きへと移行します。
■訴訟
請求額が140万円以下の場合には簡易裁判所、140万円以上となる場合には地方裁判所で行われます。
労働審判からそのまま訴訟に移行した場合でも、再度訴状の提出が必要です。弁護士などの代理人をつけずに本人訴訟を起こす場合には、書類の作成もすべて自分で行わなければなりません。訴訟の場合は、労働審判とは異なり期日の回数に制限がないため、解決までに1年以上かかることも珍しくありません。かかる労力はかなり大きなものとなります。
裁判中にも都度和解の提案がされますが、最後まで見込みがない場合には、判決によって最終的な判断が下されます。判決に不服がある場合には、控訴して高等裁判所へ、さらに上告すると最高裁判所で争われることになります。
■強制執行
裁判上の判決を得たのにも関わらず、企業側が支払に応じない場合には、裁判所へ差押命令を申し立てて強制執行の措置を取ることができます。
専門家へ相談しましょう
残業代請求は、1日ごとに勤務時間の証拠集めと請求額の計算を行わなければならないため、かなりの労力が必要となります。また小規模な会社の場合、就業規則がなかったり勤怠管理が大雑把であったりするため、証拠集めが難航することがあります。
いざ訴えることになったとしても、大抵の企業は顧問弁護士をつけているために、ありとあらゆる対抗策を講じてきます。決して一筋縄では行きません。長期にわたる争いで精神的に疲弊し、諦めてしまうこともあるでしょう。
残業代の請求は、より回収の可能性を高めるため、またできるだけ短期での決着を得るためにも、早期から弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。