日本では「夫婦同氏」の原則があるために、婚姻時にどちらか一方の姓に統一しなくてはなりません。
しかしいきなり姓が変わると社会生活に支障をきたす恐れもあることから、最近では夫婦別姓の形をとるカップルも増えています。姓を変えたくないがために結婚後も旧姓を使用したり、あえて法律婚を選ばない事実婚カップルもいるのです。
夫婦同姓制度は、女性の社会進出が増えている現代社会において、もはや不都合だらけの制度となっています。
今回は年々ニーズが高まっている夫婦別姓について紹介します。夫婦別姓がどういった方法で行われているのか、それぞれのメリットとデメリットについてもまとめています。
夫婦別姓とはどういうこと?
日本における夫婦別姓とは、1.旧姓の通称使用、2.事実婚、3.選択的夫婦別氏の3つの形を指します。
■1.旧姓の通称使用
旧姓の通称使用とは、婚姻関係を結び夫婦で同じ籍には入るものの、通称として旧姓を使い続けているケースです。戸籍上の姓は夫婦同じものとなっているため、法的に別姓が認められているわけではありません。
■2.事実婚
お互いに婚姻の意志があり、事実上の婚姻関係があるものの、籍は入れずに姓もそのまま継続して使用しているケースです。いわゆる内縁関係であり、戸籍上は他人となるため当然に別姓を名乗ることができます。ただし法的には婚姻関係にはありません。
■3.選択的夫婦別氏
婚姻時、相手の姓に合わせるか、自分の姓を残すかを自由に選べる制度です。法的な婚姻関係にありながら夫婦別姓が実現する制度ではありますが、現行の法律ではまだ認められていない制度となります。(平成29年7月現在)
今後の可能性として選択的夫婦別氏制度の導入も考えられますが、現在でもまだ議論中です。
日本では法律上、夫婦別姓は認められておらず、旧姓を通称使用するか、戸籍を別にして別姓を名乗るしか方法がないのです。
夫婦別姓の法的立場
夫婦の姓についての法的な立場として、民法と戸籍法によって「夫婦同氏」の原則が定められています。
■民法(第750条)
民法では、夫婦の姓について下記のように定めています。夫婦は必ずどちらか一方の姓を名乗らなくてはならず、一切の例外は認められていません。
民法第750条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する
■戸籍法(第6条、第74条)
戸籍法では、夫婦同籍の原則、同氏同籍の原則が定められています。つまり、婚姻すると夫婦は揃って新たな戸籍に入り、同じ戸籍の中では一つの姓しか名乗ることができないとしているのです。子供についても同様です。
戸籍法第6条 戸籍は、市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに、
これを編製する。
また、夫婦で名乗る姓は、婚姻届提出の際に決めなくてはなりません。下記のように法で定められているため、記載がないと受理されません。
戸籍法第74条1 婚姻をしようとする者は、夫婦が称する氏を届書に記載して、
その旨を届け出なければならない。
このように、現行の法律では戸籍上の夫婦別姓は一切認められていないのです。
■夫婦同姓は合憲?(平成27年12月最高裁判決)
婚姻時に夫婦同姓を強制することは人権侵害にあたるのではないか、また改姓することになるのは大抵女性である点で女性差別にあたるのではないか、という違憲審判がありました。
平成27年12月に下された最高裁判所の判決は合憲、つまり夫婦別姓は人権侵害ではなく、女性差別にもあたらないとしています。
判決では、一つの姓を称することで家族の一員であることを実感できる意義ある制度として、夫婦同姓の合理性を示しています。
また夫の氏が圧倒的多数となるのは、制度上の効果ではないため不平等はないとしました。婚姻時に夫婦どちらかの姓を名乗らなくてはならないという決まりはありますが、女性が男性の姓を名乗らなくてはならないという決まりはありません。つまり、慣習上女性の方が改姓することが多くなっているだけで、法的に定められているわけではないと言っているのです。さらに判決では、女性の改姓による不利益は、旧姓の通称使用をすることで緩和されるとの見解を示しています。
選択的夫婦別氏制度導入のきっかけになるのではないかと、多くの人に注目されていた審判でしたが、合憲判決が出てからは、議論は下火となっています。
夫婦別姓の3つの共通メリット
わざわざ旧姓の通称使用や事実婚を選んでまで、なぜ別姓を名乗るのでしょうか。夫婦別姓のメリットとして次のような次項が挙げられますが、その多くは、夫婦同姓制度から起こるデメリットの裏返しとなっています。
■メリット①仕事に影響を与えない
仕事においてメリットとなります。別姓にすることで、それまで自分の名前で築いてきたキャリアを保ったまま仕事を続けることができます。旧姓での付き合いが中心であった社内や取引先の人達に、姓が変わることで個人を認識してもらえなくなるといった不利益を受けずに済みます。特にフリーランスでの仕事を行っている場合には、自分の名前が屋号となっているため、名前の変更は大きなデメリットとなります。
■メリット②プライバシーの保護
姓が変わることで、本人の意志とは関係なく、婚姻や離婚の事実を周囲に知られてしまいます。人によっては知られたくないことを強制的に晒されるということになるため、プライバシーの侵害となる可能性もあります。別姓にすることで、その煩わしさから逃れることができることもメリットとなります。
■メリット③個人の尊重
3つ目のメリットは、個人の尊重です。自分の姓をアイデンティティと考えるために、相手の姓を自分の名前として受け入れられないという人も少なくありません。また9割以上が夫側の姓へと合わせる形になることから、男女間の不公平感があることは明白です。
夫婦別姓によって姓を保つことは、人格権の保護や男女間の不平等感の解消にも繋がります。
次に、旧姓の通称使用や、事実婚を行った場合の、個別のメリットとデメリットをみていきましょう。
1-1.旧姓の通称使用の2つのメリット
旧姓の通称使用のメリットは、別姓を使えるものの、普通の婚姻関係とは変わらないために法的な保証も受けられる点であるといえます。
■メリット①配偶者としての待遇を享受できる
法律婚の権利義務が保障されます。法的には普通の婚姻関係と変わりませんので、子供の出生時にも事実婚のように認知などの手続きが不要です。
■メリット②名前を使い分けることができる
必要に応じて旧姓と新姓を使い分けることができます。仕事の際には旧姓、それ以外では新姓と、TPOに合わせて使う名前の使い分けが可能です。旧姓と新姓の連名にするという選択肢もあります。
1-2.旧姓の通称使用の2つのデメリット
旧姓はあくまで通称なので、公的な書類などには使えないというデメリットもあります。また任意に名前を使い分けることができるという点ではメリットでしたが、反対に複数あることで周囲の混乱を招く恐れもあります。
■デメリット①正式な場面では使えない
あくまで旧姓は通称名なので、運転免許証、印鑑登録証、健康保険証、銀行口座での使用はできません。すべて戸籍上の姓への名義変更の手続きが必要となります。病院や市役所など、新姓を使わざるを得ない場面も出てきてしまいます。
■デメリット②複数の名前があることによる混乱
通称での姓と子供との姓が異なると、あらぬ混乱を招く可能性があります。子供や周囲への説明が不可欠です。子供に関係する社会生活の中では戸籍上の姓を、仕事関係では旧姓を使用するなど使い分けが必要となります。
2-1.事実婚の3つのメリット
事実婚は、戸籍や法律に縛られることがありません。お互いを尊重し合える関係を築くことができる点でメリットとなります。さらに法律婚と全く同じというわけではありませんが、事実婚にもある程度の法的な保障が認められています。
■メリット①準婚としての法的な保護
事実婚は戸籍上では他人であるとはいえ、法的には婚姻に準ずる立場として下記のような権利義務が認められています。
1.夫婦の同居・協力扶助義務(民法752条)
2.貞操義務、婚姻費用の分担義務(民法760条)
3.日常家事債務の連帯責任(民法761条)
4.夫婦財産制に関する規定(民法762条)
5.内縁不当破棄による損害賠償、内縁解消による財産分与(民法768条)
6.遺族補償および遺族補償年金の受給権(労基法79条・労基則42条)
7.避妊手術の同意(母体保護法3条)
8.各種受給権(厚生年金保険法3条の2、健康保険法1条の2、労働者災害補償保険法16条の2)
9.賃貸借の継承(借地借家法36条)
10.公営住宅の入居(公営住宅法23条の1)
■メリット②特別な手続きが必要ない
法律婚とは異なり、籍が変わらないため名義変更など特別な手続きが必要ありません。また事実婚解消の際にも、戸籍に離婚歴が残りません。
■メリット③お互いの家名に囚われない
「嫁入り」「婿入り」ではないため、お互いの家に囚われない関係性を築くことができます。親族付き合いを避けたい人にとっては大きなメリットとなります。
2-2.事実婚の4つのデメリット
事実婚は「普通ではない」という意識が社会に残っているために、周囲の理解が得られなかったり、制度上の問題で法律婚との壁を感じてしまったりすることがあります。準婚として法的に認められているとはいえ、保護の範囲は法律婚よりも狭められてしまいますし、何より不利益を被る可能性があるのが子供であるという点はデメリットとして見過ごせません。
■デメリット①配偶者としての権利義務が認められない
経済的な面でのデメリットもあります。医療費控除の夫婦合算、税金の配偶者控除など、配偶者としての各種控除が認められません。また法定相続人となれないため、相続ではなく遺言書による遺贈という形でしか財産を残すことができません。
■デメリット②社会的な信用が得られない
さらに日常生活でも関係性の証明が難しくなり、例えば相手が入院することになった際には、病院側からは親族と認められないため、病状の説明がされない、手術の同意者になれないなどの不都合が発生します。事実婚ということに対して、周囲の理解が得られない可能性もあります。
■デメリット③子供が非嫡出子となる
事実婚の場合、子供は未婚の母から生まれた非嫡出子扱いとなります。母親が筆頭者の戸籍が新しく作られ、子供は自動的にそこに入ることになります。同時に姓も母親の姓になるため、父親との姓が違うことで、子供が複雑な思いをする可能性があります。
なお、父親の姓を名乗りたい場合には、養子縁組を行って父親の籍に移す必要があります。
籍を母親と同じくする場合、何もしないと父親とは赤の他人となってしまいますので、法的な親子関係を証明するためには認知をしてもらう必要があります。法的な親子関係が成立することで、扶養義務や相続権など、主に金銭関係の権利義務が発生します。
非嫡出子とならないように、子供の出生を機に一度籍を入れて、その後すぐに離婚をするカップルもいます。
■デメリット④単独親権となる
嫡出子の場合、子供の親権は父母の共同親権となりますが、非嫡出子の場合はどちらか一方の単独親権となります。基本的には母親が親権を得ますが、父親が認知をしていて且つお互いの合意があれば、父親に親権が渡ることもあります。
親権についてはこちらを御覧ください。→なぜ父親が親権を得ることは難しいの?
3.選択的夫婦別氏制度が実現したら
夫婦が同性にするか別姓にするかを選択できる、選択的夫婦別氏制度は、数年前から議論はされていますが未だ実現していません。
もしも選択的夫婦別氏が制度として正式に実現したら、法的な婚姻関係にありながら、戸籍上の姓も保てるようになります。通称使用のデメリットであった名前変更手続きの不都合や煩わしさから開放されるだけではなく、事実婚では難しかった社会的な理解も得られやすくなります。
また、従来の制度の通りに同性にすることも可能ですし、別姓にしてお互いの姓を残すことも可能です。どちらを選ぶかは自由なので、夫婦にあった形を選択することができます。
ただし夫婦別姓にすると、子供の姓についてのトラブルが発生する可能性があります。子供の姓はどちらか一方に決めなくてはならず、複数いる場合でも全員同じ姓に合わせなくてはなりません。また姓が変わるリスクがなくなるために、離婚のハードルが下がるというデメリットも考えられます。
選択的夫婦別氏制度実現のためには様々な法改正が必要ですし、行政の混乱も予想されます。とはいえ変化は多くの問題がつきものです。今後、より現代社会にあった夫婦の新しいスタイルが増えていくことが期待されます。