判断能力を欠いた高齢者や知的障害者を、不正な契約から守るための後見人制度。その後見人による不正な横領がいまや社会問題となっています。
特に弁護士などの専門職後見人の不正は、2015年には過去最多37件にも上り、弁護士業界の信頼を揺るがす問題となっています。
専門職後見人とは
成年後見人とは、判断能力が先天的に欠如している又は低下している人物に代わって法律行為を行う法定代理人です。成年後見人となった人物は、認知症のお年寄りなどが詐欺や押し売りにより金銭を搾取されないように、本人に代わって財産を管理することになります。
後見人となる人は、家庭裁判所によって親族や専門職から選任されます。専門職とは、弁護士、司法書士、行政書士、税理士、社会福祉士、精神保健福祉士など法的知識を持った有資格者です。
親族間で争いがある、元々関係性が希薄である、健康上の問題などで、親族が後見人として相応しくないと判断された場合には、家庭裁判所の職権により専門職から選任されます。
親族などの申立人は、これを拒否することはできず、申請の取り下げなどもできません。
なぜ横領が増えているのか
不正を防止するための専門職後見人にも関わらず、なぜ横領が増えているのでしょうか。
■専門職後見人の増加
高齢化が進み後見人選任件数が増加している中、親族間では横領という意識が薄いためか、財産の私物化が問題となっていました。親族による横領を防止するため、近年では公正な立場である専門職後見人を選任する傾向にあります。実際に、親族以外の第三者が後見人となるケースは半数以上にも上ります。
横領件数は減りつつあるものの、専門職後見人の割合が増えたことで、今度は専門職後見人による横領が目立つようになったのです。
■被害が明らかにならない
横領の被害が増える原因として、被後見人自身が被害に気づくことができないという問題があります。専門職ともなると隠蔽の手口は巧妙化するため、気づいた時には被害額が膨大になってしまっていたということもあります。
そして明らかになっている件数は氷山の一角であり、実際にはより多くの不正がある可能性があるのです。
■弁護士の厳しい経済状況
弁護士業界の激しい競争化により、経済的に貧窮している弁護士が増えています。お金に困ってつい魔が差してしまったという状況も大いに考えられます。
横領の対策は
後見人による横領の対策として、後見人を監督する後見監督人の選任が増えています。後見監督人は、家庭裁判所が必要と判断した場合に選任されます。選任自体が後見人への牽制にもなり、報告も家庭裁判所と後見監督人によるダブルチェックとなるため、より不正の起きにくい環境を作ることができます。
また、弁護士が務める後見人の不正が明らかになり、有罪判決や懲戒処分となった場合には、日弁より上限額500万円の見舞金が支払われるなどの補償も行われています。