刑事事件がマスメディアで報道される際には、犯人と疑われる人物が実名で報道される場合もあれば、実名を伏せて性別・年齢・職業のみが報道される場合があります。
GW中に岐阜県で起きたバーベキュー刺殺事件でも、犯人は実名報道されていませんでした。凶悪犯罪でも、匿名で報道されるのはなぜなのでしょうか。
実名報道がされない考えうる理由について、下記にまとめました。
未成年者である
少年法第61条には、少年(未成年者)の氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない、と定められています。
少年法の目的は、罪を犯した未成年の処罰ではなく、健全な育成を促すための性格矯正や環境整備です。実名報道により社会復帰が阻害されることを防ぐため、基本的に未成年者の実名報道は行われません。
ただし未成年の犯罪被害者が死亡してしまった場合には、法の保護の対象外となるため、実名報道されてしまいます。
刑事責任能力がない
刑法第39条に、心神喪失者の行為は罰しないという条文があるため、犯人に精神障害が疑われる場合には実名報道を控える傾向にあります。不起訴となり無罪となる可能性があるからです。
例えば精神科への通院歴など、責任能力の有無が問われるような情報があると、各報道機関は匿名での報道を行います。今回の岐阜県の事件でも、犯人に精神科通院歴があったようでした。
捜査段階である
逮捕前であるなど、犯人たる蓋然性が低い場合には匿名での報道となります。
在日外国人である
実名報道することで民族的差別を助長する恐れがあると判断された場合には、匿名や通名での報道を行うケースもあります。
社会的に影響のある事件でない
実名報道が過度の社会制裁となりうるような軽微な犯罪については、匿名での報道が行われる傾向にあります。国民に実名を伝える必要性よりも、本人の不利益のほうが大きいと判断されるためです。
実名報道が原則
実名報道はプライバシーの権利や名誉権に関わってきますが、それ自体に違法性はありません。実名報道含めた犯罪に関する情報は、公共の利益として捉えられており、個人のプライバシーよりも国民の知る権利が優先されると考えられているためです。
ただし、報道の仕方に問題があった場合には、責任を問われるケースもあります。例えば、故意に虚偽の情報を流したり、犯人と決めつけたりするような内容であった場合には、慰謝料を請求される可能性があります。
実名報道による社会的な影響は計り知れません。冤罪であるのにもかかわらず、実名報道をされたことで自殺をしてしまう最悪なケースもあります。実名報道をするか否かの判断が委ねられている報道機関は、慎重な対応が求められています。