人身事故の被害者は、治療期間中の収入についても損害賠償として請求をすることができます。休業による損害賠償額は被害者の収入によって算定されるため、被害者が高収入であるほど賠償額は大きくなります。
しかし例外として、会社役員については休業損害補償の適用外となります。なぜなら役員報酬というのは、出勤日数に関係なく支払われるものであり、事故による支払の減額がないと考えられているからです。
役員報酬の2つの性質
役員報酬には、利益配当と労務対価という2つの性質があります。利益配当とは、会社を経営していることによって得られる利益であり、出社するしないに関わらず支払われるべき報酬とされています。一般的には、役員報酬は利益配当であるとみなされているため、休業損害の対象にはなりません。
■労務対価のみ休業損害として認められる
一方で労務対価とは、従業員と同様に労働の対価として支払われる報酬部分です。
役員報酬に労務対価的な性質が認められる場合には、その部分についてのみ休業損害の対象となります。つまり役員が休業損害を請求できるかどうかは、役員報酬のうちどれだけ労働対価部分が認められるかが論点となるのです。
労務対価の占める割合について
労務対価が占める割合についての算定は、明確な基準がありません。よって、個々の会社の状況によって判断されます。
■会社の規模
会社の規模が小さいほど、認められる対価部分が大きくなる傾向があります。小さな会社は役員がすべての売上を担っているということもあるため、労務対価100%と判断されることがあります。
■役員の職務内容
他の従業員と変わらない業務を行っている役員は、労務対価の占める割合が大きくなりますが、名目的役員など実際の職務を行わない役員については労働対価ゼロと判断されます。
■役員報酬額
役員報酬額が同年齢の平均年収を大きく上回っている場合には、労務対価が平均並に減額される可能性が高くなります。一方平均年収よりも下回っている場合には、労務対価割合が高くなる傾向にあります。
会社が損害賠償を行うことも
労務対価の占める割合が多いのにも関わらず、会社が報酬を支払い続けている場合には、本人に代わって会社が損害賠償を請求することができます。基本的には労働対価部分に限って請求できるものとし、会社の売上減少分などは対象外となります。ただし役員の稼働が会社の売上に直結しているような場合には、例外的に認められる場合もあります。
役員の休業損害算定は、明確な基準がない分、希望通りの額を算定することは難しくなります。交渉の際には、会社の利益状況の推移や損害の明確な裏付けが必要不可欠となります。資料準備や交渉が不安な場合には、迷わず弁護士へ依頼しましょう。