交通事故の慰謝料算出にはいくつかの方法があります。方法によって金額に大きな差が出るため、どの方法を用いるのかは非常に重要な問題となってきます。
特に自賠責基準と弁護士基準によって入院慰謝料を算出した場合、弁護士基準による金額は2~3倍近く増額されます。こんなにも大きな差がでるのは、設定単価や算出対象となる条件に違いがあるためです。
弁護士基準の算定表
入院慰謝料は、自賠責基準でも弁護士基準でも、入院日数や通院日数によって算出されます。日数が長期間であるほど、金額は大きくなることも共通しています。
しかし自賠責基準での算出が、4,200円固定×日数という単純なものであるのに対して、弁護士基準での算出は下記の表を用いて算出することになります。
算定表の特徴を挙げながら、自賠責基準と弁護士基準の違いについて解説します。
入院 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 4ヶ月 | 5ヶ月 | 6ヶ月 | |
通院 | 53万 | 101万 | 145万 | 184万 | 217万 | 244万 | |
1ヶ月 | 28万 | 77万 | 122万 | 162万 | 199万 | 228万 | 252万 |
2ヶ月 | 52万 | 98万 | 139万 | 177万 | 210万 | 236万 | 260万 |
3ヶ月 | 73万 | 115万 | 154万 | 188万 | 218万 | 244万 | 267万 |
4ヶ月 | 90万 | 130万 | 165万 | 196万 | 226万 | 251万 | 273万 |
5ヶ月 | 105万 | 141万 | 173万 | 204万 | 233万 | 257万 | 278万 |
6ヶ月 | 116万 | 149万 | 181万 | 211万 | 239万 | 262万 | 282万 |
7ヶ月 | 124万 | 157万 | 188万 | 217万 | 244万 | 266万 | 286万 |
詳しい計算方法については弁護士基準による入通院慰謝料の算定方法を参照ください。
一日の単価の違い
自賠責での入通院慰謝料は、入通院期間に対して単価4,200円で算出されます。一方弁護士基準は、その単価が大幅に高く設定されています。例えば、入院1ヶ月の慰謝料は、自賠責が4,200円×30=126,000円であるのに対して、弁護士基準によると530,000円となります。単価については4,200円と17,666円と4倍以上も差が出ているのです。
入院慰謝料の違い
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
入院慰謝料/月 | 126,000円/月 | 530,000円/月 |
入院慰謝料/日 | 4,200円/日 | 17,666円/日 |
そもそもの単価が高く設定されているというのも違いの一つですが、弁護士基準の単価設定には、より実情にそった二つの特徴があります。
■時間経過に伴う慰謝料の減額
一つ目は、入通院が長期化すればするほど単価が小さくなっていることです。自賠責の場合は1ヶ月目でも半年後でも4,200円ですが、弁護士基準の場合は17,666円→7,333円にまで下がります。
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
1ヶ月目の入院慰謝料/日 | 4,200円/月 | 17,666円/月 |
6ヶ月目の入院慰謝料/日 | 4,200円/日 | 7,333円/日 |
逆に言えば、初期の単価がかなり高額に設定されているということなので、短期の入通院でもある程度の額が見込めます。
■通院慰謝料<入院慰謝料
そして二つ目は、通院期間よりも入院期間の慰謝料の方が高く設定されていることです。1ヶ月目の通院慰謝料が28万円であるのに対し、1ヶ月目の入院慰謝料は53万円と、倍近く額が異なっています。弁護士基準では、入院と通院問わず単価4,200円です。
通院よりも入院の方が重度の症状であることが想定されるため、弁護士基準では慰謝料の金額に差を設けているのです。
算定対象日数の違い
金額に差が出る二つ目の理由は、入通院の頻度の設定に差を設けているという点です。
■自賠責基準は2日に1回以上の入院又は通院
自賠責の日数換算では、入通院の日数×2が総治療期間に満たないときには、総治療期間ではなく入通院の日数×2を治療期間として設定するという決まりがあります。
総治療期間 | |||||||
入院期間 | 通院期間 | ||||||
通院日 | 自宅療養 | 通院日 | 自宅療養 | 通院日 | 自宅療養 | 通院日 |
これはつまり、治療期間として算定して良いのは、総治療期間のうち2日に1回以上の頻度で入院又は通院をしている期間のみということを意味しています。
例えば、総治療期間90日間、10日間の入院と、30日の実通院を行ったとします。
総治療期間(90日間) | ||
入院期間 (10日間) |
通院期間(80日間) | |
通院日(30日) | 自宅療養(50日) |
90日の総治療期間のうち40日の入院又は通院をしているので、2.25日に1回の頻度となります。2日に1回以上という条件を満たしていないため、治療期間として認められるのは、総治療期間90日ではなく、40×2=80日に短縮されてしまうのです。
■弁護士基準は3.5日に1回以上の通院
対して、弁護士基準では通院期間のうち、3.5日に1回以上の実通院をしていることを基準としています。算出表も3.5日に1回以上を前提としており、これに満たない場合には、実通院日数×3.5が通院期間となります。
先程の例は、80日間の通院期間のうち30日の通院が行われており、約2.7日に1日の頻度で通っていることになるので条件を満たしています。入院期間10日+通院期間80日の90日が算定対象となるのです。
もしも80日間中10日の通院日数だった場合には8日に1日の頻度になるので、通院期間は10日×3.5=35日間に短縮されます。算定日数は、10日+35日の45日となります。ちなみに自賠責では4.5日に1回の入院又は通院頻度となるため、(10+10)×2=40日が算定対象となります。
弁護士基準による交渉を
このように自賠責基準と弁護士基準には、単価の差だけでなく、算定対象となる日数の条件に差があります。より高い金額で、より多い日数を算定できる可能性が高いために、交渉の際には弁護士基準を用いることが望まれます。