「学校中退」といえば、就職に響くなどマイナスなイメージがあるため、普通はできるだけ隠したい経歴であるといえます。しかし、弁護士の経歴には「〇〇法科大学院途中退学」と記載されていることがあります。なぜ、弁護士はあえて「中退」したことを記載するのでしょうか?
実は弁護士業界における「法学部中退」「法科大学院中退」というのは、一種のキャリアをあらわすステータスなのです。
弁護士になる2つのルート
弁護士になるには、国家試験の中でも特にレベルが高いとされる司法試験を突破する必要があります。司法試験はだれでも受験できるわけではなく、1.法科大学院を卒業するか2.予備試験に合格しなければなりません。
1の法科大学院卒ルートは司法試験合格者の大半を占める一般的なルートです。法学部出身などの法学既習者は2年、それ以外の法学未修者は3年の博士課程を履修する必要があります。
そして2の予備試験は、受験資格は問われず誰でも受けることのできる試験です。予備試験に合格することで、法科大学院に行くことなく司法試験の受験資格を得ることができます。
目標は予備試験合格
近年は、法科大学院ルートではなく司法試験予備試験ルートを選択する人が増えています。理由としては、法科大学院は高額な学費がかかること、最低でも2年間必要であることなど金銭的・時間的コストの問題があります。そして最も大きな要因となっているのは法科大学院ルートでの合格率の低さです。
平成28年の法科大学院ルートでの合格者は全体の85%程ですが、大学院別にみると最高でも一橋大の49.6%となっており、5割を切っています。対して予備試験ルートの合格率は61.5%とどの大学院よりも高い水準となっています。予備試験合格者は非常に優秀な層であるといえます。事実予備試験は合格率3%、毎年数百人ほどの難関試験です。合格率20~30%ほどの司法試験の本番よりも突破が難しいとされます。非常に難関ですが、その代わり法科大学院課程を経ることなく受験資格を得られる、司法試験の最短ルートでもあります。
多くの法学生はまず予備試験の合格を目指します。優秀な層は在学中に予備試験と司法試験に合格してしまうため、そのまま卒業をまたずに途中退学します。その後1年間の司法修習を経て弁護士登録となります。
法学部卒、法学部中退、法科大学院中退というのは、つまり予備試験ルートで司法試験に受かったことを意味しています。堂々と経歴に載せているのは、優秀さのアピールになるからなのです。
中退はキャリア
中退がステータスとして扱われているのは、弁護士だけでなく、外交官の世界でもいわれていることです。当時の外交官試験は、合格者名簿の期限が1年以内だったということもあり、在学中に合格した人は大学を中退し入省する人が多かったようです。エリートとされる人はほとんど大学中退しており、中退している経歴には「箔」付の意味がありました。
今後「〇〇法学部卒」「〇〇法学部中退」「〇〇法科大学院中退」という経歴の弁護士を見かけた際には、優秀なんですね、なんて言うとちょっと通ぶることができるはずです。