司法改革の一環として創設された法科大学院は、その多くが募集停止に追い込まれる事態となっています。司法試験受験者も年々減少しており、法曹職を目指す人が減少していることが嘆かれています。
また、司法試験制度改革により多くの合格者が排出されたことで、法曹の就職難や価格競争による年収低下を招きました。これが法曹職の人気低下の要因となっています。
法曹の就職難
司法試験改革により、目標数値までには到達しなかったものの、法曹人口は急激に増えることになりました。
司法試験に合格し司法修習を終えた法曹有資格者は、裁判官、検察官、弁護士のいずれかの進路に進むことになります。しかし新司法試験制度が始まってから法曹有資格者が2倍近く増えたのにもかかわらず、裁判官、検察官の採用人数はほとんどといって変わっていません。すると増員分は弁護士に集中することになりますが、弁護士の就職先である法律事務所も数に限りがあります。結果として、どこにも就職できない法曹難民が多く生まれることになってしまったのです。
以前は全体の1%程だった未登録者(裁判官と検察官のいずれの職にもつかず弁護士登録もしていない人)ですが、平成26年の司法修習終了者1973人のうち、27.9%の550人が未登録となっています。
苦労して司法試験を合格しても、3割近くの人が、働き口が見つからない又は法曹職につかないという状況に陥っているのです。
法曹の質の低下
二回試験の不合格者数の急増を例に挙げて、司法試験合格者の質の低下についてしばしば言及されることがあります。 司法修習の最後には、司法修習生考試という二回目の筆記試験があり、この試験の合格をもって法曹の資格を得られることになります。毎年不合格者数は1桁程度でしたが、ここ数年は2桁が当たり前、多いときで3桁にも上る年もありました。二回試験に落ちると、次回のチャンスは来年の試験となります。給料制が撤廃されてからの司法修習生の経済的負担は大きく、合格率の調整がなされているものの、この不合格者の多さは昨今の合格者の質が問われる一つの要因になっているようです。
■弁護士の信頼低下
通常新人弁護士は既存の法律事務所に就職し(いわゆるイソ弁)、先輩弁護士の指導の元、お給料をもらいながら経験を積んでいくことになります。しかし司法試験合格者の増加により、弁護士という道を選んだとしても就職先が見つからず、すぐに独立をせざるを得なかったソク弁などが増えることになりました。法律事務所の増加によってますます価格競争が激しくなり、高い弁護士会費用も払えず廃業に追い込まれる弁護士も少なくありません。
ソク弁に限らず十分な基盤のない弁護士が増えることは、法的サービスの質の低下を招きます。すると弁護士界全体の信頼が揺らぎ、やがて優秀な人が法曹を目指さなくなってしまうことが懸念されています。
依頼者への影響
司法改革は、そもそも法曹需要の増加を想定した改革でした。その需要に応えるために、法曹人口の増員を目指したのです。改革の一環である法テラスの設置により司法過疎地域の解消など一部成果はありました。弁護士の就職先として企業弁護士が増えたことも司法改革の影響でしょう。
しかし思うように需要は増えず供給過剰となってしまい、結果的に弁護士市場の競争激化と法曹資格者の就職難、法曹職の人気低下など、法曹界を揺るがす問題を招くことになりました。
またその影響は法的サービスを必要とする依頼者にも及んでいます。弁護士が増えて法律事務所の経営方針が多様化している中、どこでも同様な法的サービスを受けられるというよりは、自分に適した弁護士を見つけることが大切になってきているといえます。法科大学院時代の同級生、司法修習時代の同僚、イソ弁時代の先輩など、弁護士は同業者同士の繋がりが多い業界といわれます。弁護士同士の繋がりを利用して、信頼のできる弁護士をみつけるのも一つの方法です。