司法改革では、法曹人口を増やすことを目的に司法試験の改革が行われました。それまで合格率2~3%であった司法試験の合格者を増やすとともに、試験の受験資格として法科大学院での課程修了を条件にすることで、受験者の質の向上を図ったのです。
しかし蓋を開けてみれば合格率は思ったより伸びず、法科大学院の乱立も相まって定員割れなどが起こる事態となっています。
「国家的詐欺」とさえいわれることもある司法改革ですが、なぜこんなにも悪評を買っているのでしょうか。
1.司法試験の合格率低迷
合格率7~8割を想定していた司法試験でしたが、実際の合格率は実施初年度の48.3%をピークに年々低下しており、平成28年では合格率22.9%にまでなりました。合格者は毎年3,000人を予定していましたが、実際はピークで2,100人ほど、平成28年の合格者は1,583人となりました。当初の予定とは異なり、大きく下回る数字となっています。これが国家的詐欺だといわれる所以です。
2.法科大学の定員割れ
合格率7、8割といわれていたわけですから、法曹を目指す人にとってはとにかく法科大学院にさえ行けばと考えていたのでしょう。また大学側も人がたくさんの学生が集まることを期待し、全国に多くの法科大学院が作られることになりました。
創設当初は定員を超える人数が集まった法科大学院ですが、司法試験の合格率低迷を受けて志願者は年々減少し、やがて多くの学校で定員割れを起こす事態となりました。70校を超えていた法科大学院のうち、平成27年時点ではすでに約30校が募集停止を発表しています。募集停止を行っているのは、合格者の排出がほとんどないような実績のない大学院が中心ですが、志願率の激減については上位の有名大学でさえ例外ではありません。
法科大学院進学者=司法試験受験者ですから、司法試験の受験者も年々減っていくことが予想されます。事実平成28年度の受験者数は前年比1,100人減でした。また5年以内という受験期間の制限により、毎年5割以上の法科大学院卒業生が試験資格を失っていることもわかっています。
そもそも法科大学院の学費は決して安いものではなく(年間80~250万円程)、金銭的なコストを支払ってまで進学したいと考える学生が減ってきているのかもしれません。
3.予備試験受験者の急増
法科大学院への進学希望者が減ると同時に、受験資格を得るもう一つの方法である予備試験の受験者数が増えています。予備試験は平成23年度より開始した制度ですが、すでに3年目の時点で受験者数は法科大学志願者数を超えました。
予備試験は誰でも受けることができますが、合格率3%と旧司法試験並の門戸の狭さです。ただし予備試験合格組の司法試験合格率は7割近くあり、東大・京大・一橋など、どの上位法科大学院よりも高い数字です。
本来は経済的な理由などにより、法科大学院に進学できない人向けの特例的な制度でしたが、いまや優秀な人材にとっては予備試験こそが最短で最適なルートとなっています。事実予備試験合格者のほとんどが、上位法科大学院や上位法学部在学中の学生です。
もはや法科大学院は、法曹の質向上の役割を果たすどころか、予備試験に受からなかった人たちがお金を払って受験資格を得るためだけの施設になっているのです。
まとめ
司法試験の改革で合格者は急激に増えたものの、その後は徐々に減少傾向にあり、志願者激減による法科大学院の機能停止や司法試験受験者の減少が起こりました。司法試験受験者の減少はつまり法曹人口の減少を意味しています。法曹人口の増加を目的とする司法改革は、将来的にみると真逆の結果を招くことになってしまったのです。