平成11年以降法的サービスの拡充を目的に行われた司法改革の影響により、弁護士数は10年で1.7倍にまで増えました。弁護士の増加は特に都市部を中心とした地域に著しくみられています。弁護士数が最も多い東京都では、弁護士1人あたりの人口は840人となっています。これは今やコンビニよりも多いといわれている歯科業界と同じ水準です。
かつて合格率一桁の司法試験に合格することでしかなれなかった弁護士が、ここまで増えるに至った司法改革について紹介します。
司法試験の改革
司法改革の一環として、法曹人口拡大を目的とした法曹養成制度改革が行われました。改革では法曹の登竜門である司法試験の受験資格や内容についての見直しが行われました。
旧司法試験は、受験者数万人に対し合格者500~1,000名、合格率はわずか2~3%の超難関国家試験です。法曹人口増加のために、司法試験の合格者を増やすことを課題とし、受験者の質を担保するために法科大学院の開設も合わせて行われることになりました。
■法科大学院の設立
いわゆるロー・スクールとも呼ばれる2~3年制の法科大学院は、平成18年から開始する新司法試験に先立ち平成16年度より全国で創設されました。
それまで誰でも受験資格があった旧司法試験とは異なり、新しい司法試験では法科大学院の卒業が受験資格として定められることになりました。その代わりに試験の合格率は7~8割ほどと想定されていたこともあり、法科大学院には全国で倍率13倍を超える志願者が殺到しました。初年度の入学者は当初の予定4,000人を上回る
約5,700人となりました。
■新司法試験の実施
法科大学院設置から2年後の平成18年から新しい司法試験が実施されました。前述のように、新しい司法試験では法科大学院卒業という条件が新設されました。平成23年からは旧司法試験の完全撤廃と同時に、法科大学院卒以外の選択肢である司法試験予備試験の合格という条件も加えられています。
また、司法試験合格後の司法修習の期間についても、新司法試験では法科大学での教育期間を理由に短期化されています。
旧司法試験と新司法試験の変更点
旧司法試験(~H.23) | 新司法試験(H.18~) | ||
受験資格 | 一次 | ・受験資格問わず ・所定の学歴以上は免除 |
下記いずれかを満たす ・法科大学院卒業 ・司法試験予備試験合格 |
二次 | ・一次試験合格 ・一次免除者 |
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回数制限 | 制限なし | 法科大学卒業・予備試験合格から5年以内 | |
試験内容 | ・筆記試験(短答式) ・筆記試験(論文式) ・口述試験 |
・筆記試験(短答式) ・筆記試験(論文式) |
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司法修習 | ・1年4ヶ月間の修習 ・司法修習生考試(二回試験) |
・筆記試験(短答式) ・筆記試験(論文式) |
新司法試験は3,000人の合格を想定して行われましたが、平成18年の新司法試験の受験者は2,091人、そのうち合格者は48.3%の1,009人となりました。翌年の合格者は1,851人、翌々年には2,000人を超える合格者が出ました。旧司法試験と比較して合格者数は倍近く増えたものの、合格率は想定していた7、8割を大きく下回りこれが法科大学院の定員割れの原因となりました。
弁護士を選ぶということ
司法改革により司法試験の受験資格に制限が設けられたものの、合格者は当初の目標である3,000人までには届きませんでしたが倍近くに増えることになりました。
弁護士が増えてたくさんの法律事務所があるということは、司法改革の本来の目的である法的アクセスのし易さをもたらしたといえます。選択肢が増えるという点でメリットかもしれませんが、良い弁護士に出会うためには適切な情報だけ取捨選択する必要もでてきます。経験の浅い弁護士が増えている昨今では、弁護士の質の低下について問う声も聞かれます。弁護士が増えたことで恩恵を受けられるばかりでなく、時には被害を受ける可能性すらあるというのなら、もはや選ぶ側の法的リテラシーも求められる時代になっているのかもしれません。