借金を苦に夜逃げした場合、現実的に逃げ切ることができる可能性として時効の成立があります。時効の成立により、債権者の権利が消滅しますので、実質借金がチャラになるというわけです。
しかし時効は逃げ続ければ良いわけではなく、成立するまでにはたくさんの困難が待ち受けています。下記では時効の成立条件について説明しています。
すべての権利には時効がある
一定の時間の経過によって権利が消滅する制度を、消滅時効といいます。「権利の上に眠るものは保護に値せず」という法格言が具現化した制度であり、いくら権利を持っていても、それを行使しないままでいればその権利は保護しなくても良い、つまり消滅させても良いとしています。
また期間が経過した権利の証明は難しく、いつまでも紛争が解決しない事態を避けるためともされています。
例えば、居酒屋のツケは居酒屋が5年間請求しないままでいると債権はなくなります。債権とは、お金を払うよう請求する権利です。
消滅時効のカウント開始はいつ?
消滅時効となるまでの期間を数える上で、数え始めの起算点が必要となります。この消滅時効の起算点は、権利の行使ができるようになるタイミングであると定められています。
例えば請求書の支払い要求は、通常支払期限内には行わず、期限が過ぎてから行います。支払い要求ができるようになるタイミングがつまり消滅時効の起算点となるので、今回の例では支払期限日を過ぎた瞬間から、時効成立までのカウントダウンが始まります。期限付きの債権の他にも下記の起算点が定められています。
■期限付きの債権
支払期限平成29年3月31日など、確定期限付の債権は期限到来時が起算点となります。民法では初日不算入の原則をとっていますので、翌日の平成29年4月1日から時効が進みます。Aさんが死亡したらなど、具体的な日付が定まっていない不確定期限付の債権でも、その期限到来時が起算点となります。
■期限の無い債権
期限を定めていない債権については、契約が成立したときが起算点となります。例えば居酒屋のツケの消滅時効起算点は、商品を注文した時点です。
ただしお金の貸し借りなど消費賃借については、契約が成立してから相当期間経過後が起算点となります。
■損害賠償請求権
損害賠償を起こせる権利にも時効が存在します。損害賠償請求権には不法行為に基づく権利と、債務不履行に基づく権利があります。
不法行為に基づく請求権の消滅時効起算点は、被害者が加害者を知った時点となります。ここでいう知るとは、損害賠償請求を起こすことができる程度の情報(名前、住所、連絡先など)を知った時にあたります。例えば交通事故の損害賠償請求権は、被害者が加害者の情報を知った日が起算点となります。ひき逃げで事故当日に加害者を知り得ない状況の場合は、時効が進行しません。
債務不履行の場合は、本来の債務の履行を請求できる時を起算日として定めています。例えば購入したものが期限内に届かなかったために不利益を被り、損害賠償請求を行う場合、本来配達の期限日として定めていた日が時効の起算日となります。
消滅時効までの期間
起算点から時効が成立するまでの期間は、権利の種類によって定められています。基本的に、債権の時効期間は10年で、その他の財産権についての時効期間は20年となります。起算点の時効進行からこの期間を経過すれば、時効は成立することになります。
また短期に決着した方がよいとされているものは、時効期間が短く設定されています。これを短期消滅時効といいます。例えば商法上の時効は5年に設定されています。ビジネスに関わる取引は迅速に行われるべきだと考えられているためです。
その他、短期消滅時効の例は下記の通りです。
短期消滅時効
1年 | 飲食料、宿泊料、娯楽施設利用料 短期レンタルの損料 運送費 |
2年 | 労働者の賃金 弁護士依頼費用 公共料金 一般の商品売買に関する代金の債権 サービス業の費用 整体院、鍼灸院の施術料 |
3年 | 医療費 不法行為に基づく損害賠償請求権 |
5年 | 商法上の債権(役員報酬含む) 年金・地代・利息・賃借料・NHK受信料 労働者の退職手当 |
最後に時効の援用で権利が消滅する
このように、法的手続きによる時効中断が行われるため、通常夜逃げによる時効成立は難しくなります。
ただし、万が一支払督促も届かず、裁判を起こされないまま時効期間が経過したとします。その後、実際に消滅時効の効果を得るためには、時効の援用が必要となります。時効の援用とは、債権者に時効が成立したことを主張し、消滅時効による利益を受けることの意思表示をすることです。具体的には、配達証明付きの内容証明郵便によって時効の援用通知書を送ります。時効の援用よってはじめて債務がなくなり、晴れて借金から開放されることになります。
夜逃げの前に債務整理を
消滅時効による恩恵を受けるには、時効期間の経過と時効の援用の2つの条件を満たす必要があります。しかしそれをクリアするためには時効中断など様々な困難を乗り越える必要があり、逃げている期間は手取りの給与のみ、社会保険の享受を犠牲にする覚悟も必要です。
借金による夜逃げをするのなら、債務整理によって借金の減額や免責を受けた方がその後の人生もまっとうに生きることができます。今は無料法律相談ができる法テラスなどもありますので、より多くの人が法的サービスを受けることができる環境が整っています。夜逃げの前に、法的手段での解決をおすすめします。