複数人の債務者が、同一の債務をそれぞれ独立した責任として負うことを連帯債務といいます。連帯債務は債権回収の確実性を高めるための仕組みであり、債務が人数で分割されることはなく債務者全員がそれぞれ全額の支払い義務を負うことになります。
連帯債務には、さらに債権者の保護を重視した不真正連帯債務という概念があります。不真正連帯債務と対比する際には、連帯債務は真正連帯債務とよばれます。
この記事では、真正連帯債務と不真正連帯債務の違いについて説明します。
真正連帯債務と不真正連帯債務の違い
真正連帯債務の基本原則に、相対効という性質があります。相対効は、債務者一人に生じた事由は他の債務者には影響を及ぼさないというものです。例えば三人の債務者、Aさん、Bさん、Cさんがいるとします。もしも債務者の一人Aさんが弁済の期限の猶予を認められたとしても、その他の債務者BさんとCさんには何ら影響を与えず、当初の通り彼らは予め定められた期限内で支払わなければなりません。このように真正連帯債務では、債務者一人ひとりの債務は、それぞれ別々のものとして扱われるのです。
しかし例外として、債務者全員に影響を及ぼす7つの事由があります。相対効に対して絶対効と呼ばれるものです。真正連帯債務において認められている絶対効は、「弁済」、「相殺」、「請求」、「更改」、「混同」、「免除」、「時効の完成」です。
絶対効についての詳しい説明は連帯債務者同士の影響とは?|絶対効と相対効について①をご確認ください。
さてここからが本題です。不真正連帯債務とは、債務者全員に影響を与えてしまう7つの例外の範囲を狭めたものをいいます。不真正連帯債務での絶対効は「弁済」と「相殺」だけとなります。債権を満足させる事由にのみ絶対的に影響が及び、それ以外の事由には影響を及ぼさないのです。
例えば、債務者の一人Aさんの時効が完成して債務が消滅したとします。真正連帯債務の場合は、「時効の完成」は絶対効、つまり他の債務者にも影響を及ぼす事由なので、Aさんの負担分だけ、BさんとCさんの連帯債務も減額されます。しかし不真正連帯債務の場合には「時効の成立」は相対効です。つまりAさんの時効が成立したからといって、BさんCさんの債務には影響を及ぼさないため、一切減額されることはないのです。
このように絶対効を狭めた不真正連帯債務の方が、真正連帯債務よりも確実に債権を回収することができるのです。不真正連帯債務が、より債権者の保護を高めた概念であることがわかりますね。
絶対効の範囲の違い
真正連帯債務 | 不真正連帯債務 | |
弁済 | 絶対効 | 絶対効 |
相殺 | ||
請求 | 相対効 | |
更改 | ||
混同 | ||
免除 | ||
時効の完成 |
不真正連帯債務の例
連帯債務において債務者となる人たちは夫婦、親族、友人など、ある程度の人間関係が築かれていることを想定しています。一方で、不真正連帯債務での債務者同士は、そこまで近しい関係でない他人を想定しているのです。不真正連帯債務の関係にあるものとして下記3つの例があります。
■法人の不法行為
法人の不法行為による損害賠償債務は、その法人の理事や代表者個人も連帯して責任を負わなければなりません。このとき法人と代表者間には不真正連帯債務の関係が生じます。
■被用者の不法行為
被用者の不法行為による損害賠償債務は、その使用者も連帯して責任を負わなければなりません。業務上の交通事故などがこれにあたります。このとき被用者と使用者間には不真正連帯債務の関係が生じます。使用者が弁済した場合、使用者は被用者に信義則上相当程度の求償を求めることができます。
■共同不法行為
複数の加害者による不法行為の損害賠償債務は、一部関与であっても加害者全員が責任を負わなければなりません。このとき加害者間には不真正連帯債務が発生します。